会員企業の2018年度経営戦略 その1
2018年03月15日
道内中小企業の最大の経営課題は、人材の確保と育成です。今回の新年度戦略特集では、社員の自主性を生かしながら、雇用の在り方や働き方を問い直し、中小企業ならではの「人を生かす」働き方改革に取り組んでいる、会員企業6社を取材しました。
奨学金返還を後押し
自動車販売 十勝三菱自動車販売(帯広市)
当社は、帯広市内で自動車販売業を経営しています。資本金6000万円、社員数50人、年間売上高は14億円です。毎年4、5人の新入社員を採用していますが、企業の総合力がなければ採用が厳しくなってきたと思います。
当社はこのほど、奨学金返還支援制度を社内に作りました。社員が在学中に日本学生支援機構などから奨学金の貸与を受け、当社に入社してから返済している場合は、毎月2万円を限度に「返還支援費」を支給します。支給期間の上限はありません。当社に在籍し、返還義務がある限り支給します。退職してもそれまでに支給した支援費を当社に返還することもありません。
制度の狙いは従業員が安心して働ける環境づくりです。今日では、奨学金の返済が若者に重くのしかかっています。奨学金は借金です。何十年もかかって返済しなければなりません。返せなくなり自己破産することになれば、親や保証人が返済することになります。
こうした状態では社員は安心して働くことができないと思います。手取りが十数万の若い社員には、毎月2万円弱の返済は負担になります。しかもこれが10年以上続くのです。彼女に求婚する時に、奨学金を返していることは言いづらいですね。奨学金の返済は、若者の人生設計に大きな影響を与えていると思います。
当社の支援は新入社員だけではなく、奨学金を返済している社員全てが対象です。返還支援にかかる経費は年間100万円ほどになりますが、これで社員が返済の不安から解放されるのなら高い出費ではありません。生産性も向上するでしょう。
当社の商品は車ではなく人材だと思っています。彼らが成長しなければ会社は生き残れません。この制度で求人が有利になることも少しはあるでしょう。しかし、最大の狙いは社員が安心して働ける職場環境づくりなのです。
職場体験で自社PR
建設業 須藤建設(伊達市)
当社は、伊達市内で創業100年を迎える建設会社です。これまで毎年新卒を採用してきましたが、求人票だけでは志望者が集まらず、一昨年より札幌で行われる合同企業説明会に参加するようになりました。しかし、当社のブースに学生は一人も訪れず、その年初めて新卒を採用できませんでした。
危機感を持ち、全道共同求人委員会に参加し、学校と企業の懇談会をはじめ学校と接する機会を得ました。ある時、学校側から「求人票だけでは、建設業の特色を出すのは難しい。まず教員や学生に会社を知ってもらうことに力を入れるべきだ」というアドバイスをいただきました。さっそく建築科のある大学を中心に訪問を重ね、自社の存在をPRしました。
札幌、千葉に支社を持ち、さらに今年はニセコ支店を開設します。当社は建築部門と住宅部門があるため、入社後の勤務地や部署の選択肢が比較的豊富です。何よりデザイン性の高さは当社の強みといえます。先生の理解を得ることで、学生との進路相談では選択肢の一つとして紹介してもらえると思いました。
実際、昨年は大学教授からの紹介で、入社志望の学生が現れました。志望者にはなるべく職場実習への参加をお願いし、入社に結び付くような努力をしています。
実習は実習生が若手社員と行動を共にし、住宅や公共施設などの現場で実際に業務を体験したり、CADで施工図を描く業務を行ったりします。入社後の自らの姿をイメージすることができ、社会人への準備として有効です。また、実習を受け入れる従業員も採用につなげる意識が強いため、職場全体の雰囲気が良くなったように感じています。結果として、紹介のあった学生を採用することができました。
今後も、地域における人手不足や全国的な職人不足はますます深刻になっていきます。現実から目を背けず、会社や業界の魅力を伝えて仲間を増やしていきたいと思います。
障がい者の自立支援
飲食店 フォンブラン(美幌町)
当社は美幌町内で「まちの洋食屋 らぐぅ」を営んでいます。地域経済に寄与したいという思いから、地元産の食材を使うことをコンセプトにし、店舗は空き家となっていた古民家をリノベーションして使用しています。
障がい者の就労支援を目的としたNPO団体の飲食事業として2015年に開業。「地域で誰もが当たり前に暮らし続けていけるために」を理念に、就労支援A型事業として就労の機会が少ない障がい者などの雇用を積極的に進めています。私の実の弟に障がいがあり、現在は弟を含め12人の障がい者が働き、5人のスタッフでサポートしています。
障がい者に仕事を教えていくことは簡単ではありません。症状に合わせて接し方を変えなくてはならないのです。例えば、知的障害のあるスタッフはこだわりが強い傾向にあるため、できること(長所)を伸ばしていくことを心掛けています。一方、うつ病などの精神的な病を抱えているスタッフには仕事に対しての目標を設定し、それができなければ厳しく接します。そもそも障害を持っているわけではないので、能力的には高い部類に入ります。甘やかしてしまうと逆効果になるので、あえて厳しく対応します。
また、社会的に不安を抱える人が多いので、孤立させないように向き合っていくことも大切です。育成に当たっては応用行動分析学も取り入れ、なるべくストレスを与えさせないよう努めています。
お店を続けていくとスタッフの対応が不十分で、お客様からお叱りを受ける時もあります。厳しい目にさらされながらも日々成長しているスタッフが、「らぐぅ」で働いていた経験をステップに、将来的には一般企業で働き、自立できるようになることが当社の最終目標です。
今後は、今のようなお店を全道に展開していき、障がい者の働く場を創出していきたいと考えています。併せて、お店を通して美幌の味を全道に広め、地元にも貢献していきたいです。
今春には、道産小麦を使った自家製パンの販売を兼ねた2店舗目のカフェをオープンする予定で、現在準備を進めています。