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【71号特集1】社員みんなで考えた経営指針が未来の景色を変えた

社員みんなで考えた経営指針が未来の景色を変えた

 

㈱climb 取締役社長 佐々木 亮太郎(札幌)

 

 未経験者で入社後、債務超過の父の会社を引き継いだ佐々木氏は、トップ営業で順調に売り上げを伸ばすも社内の人間関係は崩壊寸前となり、経営する意味を見失います。そこで先輩経営者から勧められた同友会での様々な出会いが、佐々木氏と会社をまるごと変えていきました。若手経営者の変革と挑戦の実践報告です。

 


 

 当社は業務用洋菓子の製造業で、ホテルのビュッフェや機内食用のケーキの製造および各種洋菓子の業務委託を請け負っています。私は父から会社を引き継いだ2代目です。

 

 父が務めていた百貨店が倒産したのは、私が反抗期を迎えた頃でした。悪化する家庭環境に耐えられず高校1年生で実家を飛び出した私は、お金を稼ぎたい一心で、ホストとしてすすきので働きはじめます。努力次第で得られる地位、名声、報酬に魅了された私は新宿歌舞伎町に移籍し、某有名グループの店舗№1ホストとして看板に掲げられるまでになりました。

 

事業承継

 2003年に父は当社の前身である有限会社夢工房を共同経営で設立。私が2008年に結婚の報告をした際に「会社が大きくなってきたので手伝ってほしい」と懇願されました。ところが実際には設立半年でキャッシュフローが回らなくなり、共同経営者とは音信不通になっていたのです。社長の息子という立場に期待して戻った私を待っていたのは、人がすれ違えないほど狭い23坪の工場で職人として働くことでした。

 

 上司である工場長は私が何をしても手を上げ、その言葉や態度は職人気質の度を超えていました。当初、私を入社させようと思っていなかった父が、引退後は会社を工場長に任せると約束していたことは後から知りました。会社に行くのが辛く、自宅で妻に泣きながら愚痴をこぼした日々を今でも思い出します。それでも学歴がなく水商売しか知らない私が家族を養うためには、この会社で頑張るしかありませんでした。ひたすら技術練習をし、工場長に次ぐ技術者になるまで8年かかりました。

 

 仕事に慣れた私は、少し背伸びをして新車を購入します。ローンを組むため父に確認し「しっかり経営しているから心配ない」という言葉に安心した翌週、「来週にも会社が潰れる」と言われて愕然としました。会社は祖父から資金の提供を受けて延命していましたがとうとう底をつき、翌週の買掛金が払えないことに直前まで気がついていなかったそうです。そこで私はホスト時代の貯金を会社に入れる代わりに、父から実質的な経営権を譲り受けました。家族のために我慢してきた日々から解放され「ついに自分の番が回ってきた」という気持ちが湧きあがったのを覚えています。

 

 まず手を打ったのは、社員の20%の減給と残業代の全カットです。11名いた社員のうち8名が退職し、同じく退職した工場長は私が兼務しました。職人である私が商談に臨むとお客様の要望をすぐに形にできることから仕事は劇的に増え、工場は3カ所まで増えました。ところが必死で獲得した仕事はどれも利幅が薄く、ほんの僅かの黒字にしかなりません。社員からは黒字なのにどうして待遇が改善されないのかと不満が噴出しました。

 

 それは社員同士の関係にも影響し、それぞれの工場で「あの人は使えないから辞めさせてくれ」といった不平となって現れ、社内の人間関係は崩壊寸前でした。2018年頃は過酷な労働環境から、スポンジを焼きながら倒れる社員も出たほどです。それでも当時の私には社員に申し訳ないと思う気持ちはなく、彼らの技術不足のせいで会社が儲かっていないと本気で思っており、経営する意味も目標もわからなくなっていました。

 

同友会との出会い

 その当時、製造を請け負っていた東京の大手企業の工場長に相談し紹介されたのが、伊藤塗工部の伊藤雅彦専務(札幌支部会員)でした。伊藤さんに「同友会って知っている?」と聞かれた私はすぐ入会を決意し、経営指針研究会を受講します。初めて事業計画書やキャッシュフロー表を学び、経営者の役割を考えるきっかけになりました。特に労使見解との出会いが衝撃的でした。どれだけ頑張ろうと利益にならなければ給与に反映されないと考えていた私は、研究会のサポーターに「社員に経営責任を押し付けている」と強く言われました。その言葉が何日経っても頭から離れず、自己中心的だった私の経営姿勢が大きく変わるきっかけとなりました。

 

 他の先輩経営者からは「自分の能力に見合っていないのなら、思い切って工場を一つにしたらいい」との助言を受け、2019年に製造を第一工場に集約し、交代制の24時間稼働にしました。売り上げは3分の1になりましたが純利益は3倍に増え、ようやく利益を生むことができる体質に変わりました。将来を見据えて輸出に力を入れようと、2020年1月にベトナムとマレーシアで商談が成立したその翌月、新型コロナウイルスが蔓延し状況が一変しました。

 

 

コロナ禍で加速した企業変革

 ホテルと航空会社の受注や全国の催事もすべてキャンセルになり、売り上げは97%減少しました。「こういう時は情報収集を欠かさないように」と先輩経営者からアドバイスを受けた私は、毎日のように更新される融資や補助金や助成金の制度をチェックしすぐ取り組みました。次に、ある経済団体のWeb掲示板で緊急在庫処分に申し込むと、たちまち全国の各種メディアに取り上げられました。在庫が数日で売り切れ、その後も全国から応援のメッセージとともに注文が舞い込み、励みになりました。

 

 また販売スペースがない工場で、非接触で販売できる方法はないかと考え、思いついたのがケーキを券売することでした。これも数々の取材を受け、同友会の青年部の先輩から「そこまでいったら自動販売機にできないの?」と言われたことがきっかけで、年が明けた2021年に日本初の冷凍ケーキの自動販売を開始しました。想像以上の反響で商品を買い求める行列がすぐにでき、補充が追いつかない忙しさでした。現在は札幌市内4カ所に設置しています。

 

冷凍ケーキの自動販売機


 同時に、社員と一緒に経営理念を作成しました。社員からは反発されるかもしれないと思っていましたが「会社の将来を一緒に考えることができて嬉しい」と、会社に一体感が生まれるのを感じました。当社の理念は、①目先のことより今後を見据えた考えを持ち一致団結し、会社を使って我々の夢と希望を実現する②「安心・安全・また利用したい」を地域・取引先に感じてもらえる商品への要望を知識と技術を鍛錬し形にして提供する③常に環境に合わせ臨機応変に順応しお互いを高めあう会社を目指す、の3つを柱としています。

 

 社員から「社名もロゴも理念に沿ったものに変えたい」という声があがり、「株式会社climb」と決めました。climbは「手足を使って登る」という意味です。私たちは常に作業場に立ち、手を使って製造します。「自分たちが作った理念を、手足を使って掴み取る」という思いからこの社名にしました。そして理念で一丸となった今ならできると確信し、2021年8月に120坪の工場に移転を決意しました。

 

理念に沿って変えたclimbの社名とロゴ

 

「今」とこれからの目標

 券売機と自販機の爆発的ヒットで2020年度は過去最高純利益を達成しました。初めて社員に賞与を渡し、ようやく彼らに還元できる日がきたと安堵しました。2022年4月からは働き方改革に本気で取り組み、定時で終わらなかった分は私が製造すると強引に決めました。初日は予想通り製造作業が残り、これが毎日続くかもしれないと不安を感じながら作業を終え事務所に戻ると、社員が申し訳なさそうに帰宅せずに残っており、労ってくれました。以降、私が残って作業した日はありません。自分たちで考えて行動を変え、結果を出してくれました。

 

 新たな挑戦として、当社が培った冷凍技術を応用した日本初の「フローズンケーキ」を発売します。フローズンケーキは冷凍でもフォークが通りそのまま食べられるケーキで、解凍しても溶けずに食べられます。年内に開店する「SAPPORO FROZEN CAKE Lab(札幌フローズンケーキラボ)」で販売し、開発した職人の名前と商品への思いを値札に明記します。当社を選んで働いてくれている社員にスポットを当て、商品づくりを通して学び合い、成長につなげてほしいと思っています。

 

フローズンケーキ(ココバニ・カシモン)

 

 そして私には、社員の夢と希望を実現するという理念に向けて、彼らがやりたい事業を子会社化し、ホールディングスをつくりたいという目標があります。その第一段階として、福祉事業を青年部の先輩と提携して始められないかと検討中です。会社が多角化することで売り上げを安定させ、社員も幸せに安心して働ける会社にしていきたいのです。

 

 同友会で知り合った経営者仲間がいなければ、すでに会社は倒産していました。経営指針研究会を受講しなければ、社員と心を一つにできなかったでしょう。同友会で学んだことが経営のすべてに生きています。当社の理念の実現はまだこれからです。謙虚に学び、努力を続け、自社に生かしていきます。

 

(2022年9月15日「第50回青年経営者全国交流会in兵庫」報告集より転載、一部加筆。 文責 山崎 直子)

 

㈱climb 取締役社長 佐々木 亮太郎(札幌)
■会社概要
設  立:2003年
資 本 金:850万円
従業員数:25名
事業内容:洋菓子OEM・洋菓子冷凍自販機・業務卸