011-702-3411

営業時間:月~金 9:00~18:00

同友会は、中小企業の繁栄と、そこで働く全ての人の幸せを願い、地域社会の発展のために活動しています。

【講演録】倒産危機からの自律型組織づくり/渡辺農機 代表取締役 渡邊幸洋氏

2025年05月15日

◆潰すまいと33歳で社長に

当社は1908年創業の農機具製造販売メーカーで、私の曽祖父が立ち上げました。3代目の祖父の代に、ある他社製品の製造受注がなくなり、売り上げが半減。私の父の代でも業績は悪化し続け2008年に倒産を決めましたが、鉄工所の助けを受け事業を継続しました。首の皮一枚つながったものの、親戚の会社の倒産で父に個人保証債務が残り、資金の借り入れもできなくなりました。

 代表者の交代しか道はありません。1997年に入社していた私に社長になる自信はありませんでしたが、会社を潰すまいと33歳で事業承継しました。

◆社員の声を聞く

 社長になり、同友会の経営指針研究会を受講しました。経営指針作成のため、初めに「何のために経営しているのか」をシートに記入することから始まります。続いて創業時の精神や大切にしている価値観・人生観などが続き、経営理念を考えていきました。

 それまでの私は「無目的・無目標・無勉強・無行動」でしたが、各項目が本当に腹落ちした時に強い気持ちが芽生え、経営の目的が明確になったのです。さらに同友会で学び、良いと思ったことはすべて実行していくと、少しずつ利益が出始めました。

 ところが、光明が見えた一方で立て続けに従業員が退職したことで、一度立ち止まります。そして、業績を良くすることばかりを考え、社員一人ひとりに目を向けられていなかったことに気付きました。

 まずは社員の声に耳を傾けることに取り組みました。従来の「こう答えてあげよう」という先入観を捨てて面談し、最後までじっくりと聞くようにしたのです。例えば「こんな設備投資をしたらどうでしょう?」といった提案に対し、すぐに実現が難しいと感じても頭ごなしに否定しません。すると、社員は自分の意見を「言えた」という満足感を得るのです。提案の実現可否ではなく、社員が安心して相談し、意見を述べられる環境づくりを大切にしました。

 すると、社員は「この社長に言えば聞いてくれる」と感じ、「会社をこうしたらもっと良くなるだろう」と主体的に考え、次々と提案してくれるようになりました。自分で考え、自分で動く。これが、現在まで続く自律型組織づくりの入り口となりました。

 個性を尊重し、多様な意見や考え方を包含する大きな丸のような「全社一丸」のイメージで会社づくりを進め、設計者の採用や効率化なども相まって、売り上げは一時2倍にもなりました。


◆新10年ビジョン

 順調な経営から一転、コロナ禍で顧客の設備投資意欲が減り、業績が再度低迷します。ある社員は10年後の不安を涙ながらに訴え、26年間会社を支えてくれた唯一の事務職員も退職しました。

 精神的に厳しい状況でしたが、これまで経営指針の実践で何事も乗り越えてきた経験から、2024年より「新10年ビジョン」を掲げて再スタートを決意。従来の多角化から、改めてモノづくり(農機具製造)を主眼に据え、社員が人生設計を立てられるようなワークインライフ企業を目指しています。(3月28日、函館支部3月例会)


 わたなべ・ゆきひろ=1975年旭川市出身。97年、渡辺農機入社。2008年から現職。全道経営指針委員長。同社は本社旭川市。農機具製造販売業。社員15名。