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同友会らしい「経営指針」の確立、成文化の進め方 経営指針づくり
1 経営指針はなぜ必要か
【その必要性】
 21世紀に入って、中小企業をめぐる情況は一段と厳しくなっています。産業の空洞化が進み、地域経済が危機にさらされ、中小企業のよって立つ基盤が大きく崩壊しつつありあます。これに長期不況が追い打ちをかけています。
 また市場の成熟化が進み、量より質へ、本物志向となる一方、IT化の進展も本格化しています。
 これらの動きのいずれをとっても従来の経営のやり方では対応できません。今こそ環境変化を的確にとらえ、ぶれない座標軸をもった経営が必要となっています。
 いくつかの同友会では、「第2の創業」を目指すことを呼びかけています。現在の厳しい経営環境を乗りきるために、これまでの事業領域や経営活動の仕方を見なおし、新たに企業を創業する気持ちで、抜本的に事業のあり方を再構築することを「第2の創業」といっています。経営環境が構造的に変化している以上、企業も小手先の改善に終始することなく、構造的に変わっていかなくてはなりません。「第2の創業」が必要とされる所以です。
 また社員の不安を取り除くことも、経営者にとって大切なことです。
 40年、50年と続いた老舗企業が倒産するニュースを聞くと、社員は「我が社は大丈夫だろうか」とか「事業縮小あるいは倒産しないだろうか」と不安が募ります。右肩上がりの時代なら、「黙って俺についてこい」方式でも通用しましたが、現在は通用しません。社員の誰でもが納得し、安心してついていけるような自社の今後の進むべき方向を的確な方針として示すことが、今、経営者に求められています。
 以上述べたような課題、すなわち現在の経営者が抱えている最も根源的な課題に応えるのが経営指針です。したがって経営指針なしに21世紀の経営を行うことは困難と言わざるを得ません。
 同友会の経営指針づくりが目指すものは、一言で言えば自立型企業とそれを支える自主的社員を育成することです。経営指針の確立とそれを社員とともに実践していくことで会社が変わっていく事例は全国の同友会の中で数多く報告されています。
 また経営指針の確立は、対外的な信用力を高める上でも大きな効果を発揮します。特に金融機関とつき合う場合、経営指針の存在は大きなものとなっています。

【3つの構成部分】
 同友会では「経営理念」「経営方針(ビジョン)」「経営計画」の3つを総称して「経営指針」といっています。このように「経営指針」を「理念」、「方針」、「計画」の3つに定式化しているところに同友会らしい特徴があります。
 「経営理念」とは、企業の目的とは何かを考え、経営にあたっての根本的な考え方を明示するものです。
 「経営方針」は、この理念に基づいて、経営の基本的方向を確立することです。時代の流れをするどく洞察し、企業の事業機会を変化の中から見つけ出し、自社の長所、短所を見きわめ、長所を生かし、短所を改善し、未来を切り開く目標とそれを達成するための戦略を明らかにします。
 「経営計画」は設定された目標と戦略にもとづき、それを達成するための手段、方策、手順を具体的に策定するものです。
 経営指針の根幹をなすものは「経営理念」です。したがって経営理念の確立がすべての始まりとなります。

【経営者の責務】
 企業は継続してこそ社会的責任を果たすことができます。厳しい経営環境のもとにあっても、企業を維持発展させることは経営者の責務です。同時に企業活動を通じ、まわりに集まる人、社員とその家族、株主、顧客、取引先、地域社会などすべてを幸せにすることは経営者の仕事であり、喜び、生きがいでもあります。
 そのためには、企業の進むべき方向を明らかにし、社内の意思を統一して企業経営にあたることが不可欠です。すなわち経営指針の成文化です。経営理念、方針、計画を成文化することは経営者の最も大切な義務・責任と言えます。これを実行しないということは経営者としての責務を果たしていないということになります。
 経営指針の成文化は経営者のリーダーシップのもとで、全社員の英知を結集して行うことが大切です。これでこそ、全社が目標に向かって結束することが可能となります。

2 同友会の歴史、理念から学ぶ
【「労使見解」の精神を経営指針づくりに生かす】
 現在、経営を進めるにあたって、最も大切なことは、次の2つに集約されます。
  (1)今後の進むべき方向についての経営者の方針を明らかにすること
  (2)働く社員との信頼関係を築くこと

 同友会では早くからこの点を強調しています。1975年1月に発表された「中小企業における労使関係の見解」(略称「労使見解」)です。発表後、4半世紀以上経過していますが、経営の原点にふれたこの文書は、現在でもみずみずしい生命力を持っています。経営指針づくりに際して、是非とも参考にすべき文書です。
 第2次世界大戦以降、日本の産業界が復興、発展していく過程で、1960年代、70年代にかけて自社の労使関係に悩んだ会員経営者が「中小企業における労使見解はどうあるべきか」について長期にわたる討論・研究の末にまとめたのがこの見解です。
 まず、(1)経営者の経営責任を明らかにしています。経営がどんなに苦しくても他に責任を転嫁することは許されません。そのためには、(2)経営は成り行き任せではなく、計画にもとづく経営が提唱されます。その上で、(3)中小企業においては経営者と社員はパートナーとしてお互いに最も信頼し合える間柄であるとしています。人間尊重の精神にたち、働きがい、生きがいのある仕事の仕方を追求することを呼びかけています。
 経営者の責務をふまえた上で、社員との信頼関係を築くことができるかどうかが、企業が生き残れるかどうかの鍵となります。経営指針はつくったが、会社は昔と変わらず、業績も好転しないという声をときどき聞きます。これについて調べてみると、経営者と社員との間に信頼関係が未確立の場合がほとんどです。社員との間で人間的な信頼関係ができている企業は厳しい経営環境の中でも生き残っています。
 経営者と社員との間の信頼関係を築くことが企業発展の基礎になることを、4半世紀も前に指摘した「労使見解」の先見性は同友会の貴重な財産と言ってよいでしょう。
 経営指針を確立する運動は、1977年度の中同協の活動方針で提唱され、1979年度の活動方針では「経営理念・方針・計画をすべての会員が成文化する運動をひろげよう」となり、その位置づけが一段と明確になりました。

【同友会活動に積極的に参加して学ぶ】
 同友会理念の実践をめざして、全国各地で日常的に進められている同友会活動は経営指針づくりの上で多くのヒントを与えてくれます。
 同友会の支部や地区での活動、共同求人、社員教育、異業種交流、環境問題研究、政策活動などに積極的に参加し、同友会らしい研鑽と交流を通じて、多面的で内容豊かな同友会活動から学ぶことが経営指針の中味を充実したものにします。同友会は経営指針のまたとない学びの場、道場であり、その中で自らの経営指針を確かめ、自身をつける場でもあります。
 同友会では今後の目指すべき企業の方向として「21世紀型企業」づくりを提唱しています。(中同協第25回総会、1993年)

 1 自社の存在意義をあらためて問い直すと共に、社会的使命感に燃えて事業活動を行い、
  国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準で応えられる企業

 2 社員の創意や自主性が十分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ちあい、
  高まり合いの意欲に燃え、活力に満ちた豊かな人間集団としての企業

 経営指針づくりを通して、「21世紀型企業」の実現に向けて社員とともに、力を合わせましょう。

3 中小企業の今後の展望
 中小企業は大企業とちがい、その地域とともにあり、歴史的にも経済的にも地域社会と密接な関係を持っています。中小企業の存立基盤は地域の中にあり、地域の人々の生活の中で育てられてきました。現在、日本の働く人の8割近くが中小企業で働き、全工業出荷額の約6割、流通の8割を中小企業が担っています。中小企業こそが日本経済の真の担い手であります。
 1990年代以降、世界的な趨勢として中小企業の役割が見直され、評価が高まっています。それは雇用や公正競争の担い手であり、地域経済・社会・文化を支え、社会進歩の源泉としての期待の高まりなのです。
 こうした中で、「経営指針の確立と成文化」を通じて、わが企業が社会にどのような貢献ができるかを具体的に見きわめることは、とても大切なことです。
 それは中小企業に働く全社員が中小企業の存在価値を確信することにつながり、その確信は、さらに国民と地域の要求に応えるべき強い使命感を自覚させることになります。
 同友会は、「経営指針の確立と成文化」運動を、同友会の3つの目的の具体的実践課題として位置づけ、すべての中小企業家に「経営指針の確立と成文化」運動を呼びかけ、同友会の輪と、中小企業家の連帯の絆をさらに広げていくことを目指しています。  
<出展:中小企業家同友会全国協議会『経営指針作成の手引き』より>

経営指針成分化の枠組み
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